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★鐘の音が渡る街角★
石畳の街を歩いていると、どこからともなく鐘の音が聞こえてくる。
ドイツの古都ハイデルベルグの旧市街。ネッカーという大河が緩やかに流れ、小高い丘には石造りの、壮大なハイデルベルグ城がそびえる。 昔、ヨーロッパで一世を風靡した、アルトハイデルベルグ(皇太子と下宿屋の娘の恋の物語)が生まれた街。 古城街道起点の、学生街の夕暮れは、鐘の音に包まれる。 私にとっての鐘ベスト3は、ここハイデルベルグの精霊教会、ザルツブルグのグロッケンシュピール、そして札幌時計台。 いずれも古い、古い音だ。 グロッケンシュピールはザルツブルグのレジデンツ広場で毎日、7、11、18時に鳴る35個の鐘。モーツァルトの旋律を奏でているそうだが、それは聴いたことがない。というより、強引に聞けばモーツァルトなのかもしれないが…? 札幌時計台は明治から続く歴史の音。毎時間ジャストに鳴る。私は地方から来た友人達に、時計の長針が12を指す3分前に時計台へ行く様に勧める。明治初期の日本で、教会以外で西洋式の鐘が聞けたのはここだけのはずだ。 北大の武道館として立てられた札幌時計台。今はビルに囲まれ、その存在感が薄れているが、明治時代の札幌は石狩平野の名にふさわしくどこまでも続く広大な土地、そこに時計台の鐘が鳴り響いたと伝えられる。 私の家系は北海道の出身ではなく、身近で知りうる最も古い札幌の話は母方の祖母のもの。これはせいぜい昭和初期、戦前のものであるが、勿論地下鉄などはなく、特に戦時中はガソリンがないため、馬車(と言っても貴族が乗る様なものではなく、馬橇というものである。時々ニュースなどで見かける馬橇レースに使っているようなものだろう)が使われたと聞く。その程度の話で、時計台の鐘がどこまで響いたかについては、今やまったくわからない。 ハイデルベルグの鐘は、これらのいずれとも違う。 それは、全くただの(失礼)教会の鐘なのだ。ごく単純な教会の鐘である。 ところが、鳴り始めると、世界一美しい鐘に聞こえる。(ただし、耳の良い人に限るかもしれないが…) 私は、薄暗くなった石畳の旧市街を歩いていた。曇り空から、今にも雨粒が落ちてきそうだ。 石畳の道の続く先には、精霊教会の広場があり、ツムリッター(騎士の家)という16世紀に建設されたホテルがある。戦争でも焼けなかった重要文化財だ。1階のレストランは誰でも利用できるため、いつも観光客が群がっている。 夏なので陽は長いが、すでに夕刻を越えて、人々が夕食のために中心部へ集まり始める時間だ。精霊教会が見えてきたその時、鐘の音が響いてきた。 私は立ち止まる。その不思議な音色に、思わず立ち止まってあたりを見回す。勿論、理屈ではわかっている。鐘は精霊教会のものだ。 でも… 鐘の音は、私の足元から響いてきた。 石畳から立ちのぼり、行く手に立ち塞がり、私の身体にまとわりつき、全身を包みこみながら鳴っている。 石造りの教会、石造りの建物、石造りの道…、教会の鐘は、旧市街を埋めている古い石の全てに反響しているのだった。 どこから響いてくるのかも定かではない、あらゆる方向から旧市街に満ちあふれる鐘の音。 心が震えて、その場から動く事ができなくなった。道の真ん中で立ち止まり目を閉じて、中世の音色を全身で感じた。 石畳の街はいい…古都の柔らかさ、穏やかさ、情緒全てが、この音色を支えている。 ドイツの古都が持つ魅力、そこで生きる人々の質素で堅実な暮らし。 だから私は、ドイツが好きだ。 |
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